防爆とは
爆発を防ぐための技術と規制
エヌ・シー・エス株式会社
本日のアジェンダ
- 防爆の基礎知識
- 爆発のメカニズム
- 危険場所の分類
- 防爆構造の種類と特徴
- 防爆機器の選定方法
- 検定・認証制度
- 保守管理のポイント
防爆の定義
「防爆」とは、爆発を引き起こさない、爆発が起こるのを防ぐことです。
爆発が起こっても壊れないということではありません。
重要:防爆 ≠ 耐爆
爆発を「防ぐ」技術であり、爆発に「耐える」技術ではない
爆発が起こる条件:爆発の三要素
この3つの要素が同時に存在すると爆発が発生します。
防爆技術は、この3要素のうち1つ以上を排除することで爆発を防ぎます。
点火源となりうるもの
- 電気火花(スイッチ、リレー接点など)
- 高温表面(機器の発熱部分)
- 静電気放電
- 機械的火花(摩擦、衝撃)
- 電磁波(高周波エネルギー)
- 断熱圧縮
電気機器は特に電気火花と高温表面が問題となります。
防爆の必要性
- 可燃性のガス・蒸気・粉塵が存在する空間での安全確保
- 電気製品が火種になるリスクの低減
- 静電気、高温部分、電気火花などの防止
- 人命保護と財産の保全
- 事業継続性の確保
危険場所の分類(ガス・蒸気)
| Zone区分 |
定義 |
| Zone 0 |
爆発性雰囲気が連続的に、または長時間にわたって存在する場所 |
| Zone 1 |
正常運転時に、爆発性雰囲気をしばしば生成する可能性がある場所 |
| Zone 2 |
正常運転時に、爆発性雰囲気を生成する可能性が小さく、短時間しか持続しない場所 |
危険場所の分類(粉塵)
| Zone区分 |
定義 |
| Zone 20 |
可燃性粉塵の雲が連続的に、または長時間存在する場所 |
| Zone 21 |
正常運転時に、可燃性粉塵の雲をしばしば生成する可能性がある場所 |
| Zone 22 |
正常運転時に、可燃性粉塵の雲を生成する可能性が小さく、短時間の場所 |
粉塵はガスとは異なる特性を持つため、別の分類体系があります。
危険場所の実例
- 石油精製所:Zone 0, 1, 2(ガソリン、ナフサ等の蒸気)
- 化学プラント:Zone 1, 2(有機溶剤蒸気)
- 塗装工場:Zone 1, 2(シンナー、溶剤蒸気)
- 製粉工場:Zone 21, 22(小麦粉、穀物粉塵)
- 石炭貯蔵施設:Zone 21, 22(石炭粉塵)
- ガスステーション:Zone 1, 2(ガソリン蒸気)
防爆電気機器の例
- 防爆モーター
- 防爆照明器具
- 防爆制御盤
- 防爆センサー(温度、圧力、流量等)
防爆電気機器の例(続き)
- 防爆カメラ
- 防爆通信機器(無線機、電話機)
- 防爆計測機器
- 防爆空調機器
防爆構造の種類(1/2)
- 耐圧防爆構造:内部爆発は許容するが、容器の外側に波及させない
- 内圧防爆構造:内部の圧力を高くしガス、粉じんの侵入を防ぐ
- 油入防爆構造:絶縁油で浸してガスとの接触を断つ
防爆構造の種類(2/2)
- 安全増防爆構造:絶縁などを強化して、点火源ではない状態を維持する安全度を高める
- 本質安全防爆構造:エネルギーを制限し点火源にならない
- 樹脂充填防爆構造:樹脂で充填して点火源を封じ込める
耐圧防爆構造
原理:容器内部で爆発が発生しても、容器が破壊されず、外部の爆発性雰囲気に点火しないように設計された構造。
特徴
- 強固な容器で爆発圧力に耐える
- 接合面(フランジ)の隙間で炎を冷却
- 外部への火炎逸出を防止
Zone 1での使用が可能
内圧防爆構造
原理:容器内部に保護ガス(空気または不活性ガス)を送り込み、内部圧力を外部より高く保つことで、爆発性雰囲気の侵入を防ぐ構造。
特徴
- 連続的にガスを供給し正圧を維持
- 圧力低下時の警報・電源遮断機能
- 起動前のパージが必要
Zone 1またはZone 2での使用が可能
本質安全防爆構造
原理:電気回路のエネルギーを制限し、正常時および事故時においても、発生する火花や熱が爆発性雰囲気に点火しないようにした構造。
特徴
- 電圧・電流を安全なレベルに制限
- 安全保持器(バリア)の使用
- 故障時の安全性を考慮した設計
Zone 0, 1, 2での使用が可能
油入防爆構造
原理:電気部品を絶縁油の中に浸し、電気火花や高温部分が爆発性雰囲気と接触しないようにした構造。
特徴
- 絶縁油が爆発性ガスとの接触を遮断
- 油面は爆発性雰囲気より高い位置に維持
- 油の劣化管理が必要
Zone 1での使用が可能
安全増防爆構造
原理:正常運転時に火花や危険な温度上昇を生じない電気機器において、構造的な安全度を増加させて、点火源となる可能性をさらに低減した構造。
特徴
- 絶縁性能の大幅な向上
- 温度上昇の抑制
- 電気接続部の機械的強度向上
- 保護等級の向上(防塵・防水性能)
Zone 1での使用が可能
樹脂充填防爆構造
原理:点火源となる可能性のある電気部品を、エポキシ樹脂などの化合物で完全に封入し、爆発性雰囲気との接触を防ぐ構造。
特徴
- 樹脂で電気部品を完全に覆う
- 火花や高温部分を外部から遮断
- コンパクトな設計が可能
- 修理・部品交換が困難
Zone 1での使用が可能
防爆構造の比較
| 防爆構造 |
適用Zone |
主な特徴 |
| 耐圧防爆(d) |
Zone 1 |
内部爆発を許容、外部へ伝播させない |
| 内圧防爆(p) |
Zone 1, 2 |
正圧維持によりガス侵入を防ぐ |
| 本質安全(i) |
Zone 0, 1, 2 |
エネルギー制限により点火源にならない |
| 油入(o) |
Zone 1 |
絶縁油でガスとの接触を遮断 |
| 安全増(e) |
Zone 1 |
構造的安全度を増加 |
| 樹脂充填(m) |
Zone 1 |
樹脂で点火源を封じ込める |
温度等級とガスグループ
温度等級(T等級)
機器表面の最高温度を規定。可燃性ガスの発火温度より低くなければならない。
T1(450℃)、T2(300℃)、T3(200℃)、T4(135℃)、T5(100℃)、T6(85℃)
ガスグループ
ガスの危険性に応じた分類。最小発火エネルギーや消炎距離に基づく。
- IIA:プロパン等(危険性:低)
- IIB:エチレン等(危険性:中)
- IIC:水素、アセチレン等(危険性:高)
防爆機器の選定方法
- 危険場所のZone区分を確認
Zone 0, 1, 2またはZone 20, 21, 22
- 存在するガスの種類を特定
ガスグループ(IIA, IIB, IIC)を確認
- ガスの発火温度を確認
必要な温度等級(T等級)を決定
- 適切な防爆構造を選択
使用環境と機器の特性に応じて選定
- 検定合格品であることを確認
型式検定合格証の有無を確認
防爆機器の検定(認証)
- 防爆機器の検定(認証)は法的に必須
- 労働安全衛生法に基づく規制
- 型式検定合格証が必須
- 海外認証品であっても日本の検定が例外なく必須
- 非合格品の機器使用は法律違反
- 登録型式検定機関による試験と審査
型式検定に合格した機器のみが危険場所で使用できます。
国際規格と日本規格
IEC規格(国際電気標準会議)
IEC 60079シリーズ:防爆電気機器の国際規格
日本の規格
- IEC整合規格:(実質的に)IEC規格の翻訳版
- 構造規格:日本固有の規格