防爆検定:会話形式 Q&A

エヌ・シー・エス株式会社がお届けする、防爆電気機器の型式検定申請に関する疑問を解決するQ&Aガイド。申請者(Bさん)と解説担当者(Aさん)の会話形式で分かりやすく解説します。

まずは申請書から:定格欄の書き方

ステップ1:防爆構造の確認

Bさん:

こんにちは、Aさん。よろしくお願いします。この申請書の「定格」欄、いつもどう書けばいいか迷うんですよね。

Aさん:

こんにちは、Bさん。「定格」欄の記載内容は、申請する防爆電気機器の「防爆構造の種類」によって異なります。まずは、申請する製品がどの防爆構造(耐圧、安全増、本質安全など)に該当するか確認しましょう。

ステップ2:記載項目の確認

Aさん:

防爆構造の種類によって、記載すべき項目が異なります。主な項目は、定格電圧、定格電流などの電気的定格、そして周囲温度です。

  • 電気的定格: 一般規格の定格表示方法に準じ、単位を含めて記載 (例: AC200V, 10A)。
  • 周囲温度: 標準は -20℃~+40℃。異なる場合は具体的に記載 (例: -10℃~+50℃)。 (※ ℃ は Degree Celsius)
  • 水冷式の場合: 冷却水の水量と温度も記載 (例: 冷却水 水量 規定水量 20L/min)。
  • 本質安全防爆の場合: 電源の種類、電圧、電流制限値、測定範囲なども記載が必要な場合があります (例: 圧力測定範囲 0~1MPa)。

ステップ3:同一型式一覧表

Bさん:

同一型式…、基本的な構造や機能が同じで、一部の仕様や性能が異なる製品のことですよね?

Aさん:

正解です!同一型式がある場合は、「同一型式一覧表」を作成し、それぞれの製品の仕様(型式ごとの定格など)を明確に記載する必要があります。

ステップ4:確認と提出

Aさん:

「定格」欄の記載が完了したら、記入漏れや誤りがないか必ず確認しましょう。不明な点があれば、検定機関に相談するのがおすすめです。

エヌ・シー・エス株式会社では、申請書はグーグルフォームに入力で、添付書類は電子ファイルで提出します。

具体例:電動機の場合

Aさん:

例えば、電動機の場合は、以下の項目を記載します。

  • 定格電圧 (例: AC200V)
  • 定格電流 (例: 10A)
  • 出力 (例: 1.5kW)
  • 周囲温度 (例: -20℃~+40℃ または -10℃~+50℃)
  • 水冷式の場合は冷却水の情報

具体例:本質安全 ガス検知器

Aさん:

本質安全防爆構造のガス検知器なら、例えば以下のように記載します。

  • 電源 (例: DC12V(乾電池 単3形 8個))
  • 検知対象ガス (例: メタン)
  • 測定範囲 (例: 0~1000ppm)
  • 周囲温度
  • 本質安全パラメータ (後述)

「定格」欄は製品の種類や構造によって異なりますので、必要な項目を漏れなく記載することが重要です。

本質安全防爆構造:特有の記載

重要なパラメータ

Bさん:

本質安全防爆の場合、パラメータって具体的にはどんなものですか?

Aさん:

本質安全防爆性能を維持するために重要なパラメータ、主に電圧(Ui), 電流(Ii), 電力(Pi), インダクタンス(Li), キャパシタンス(Ci)などを「定格」欄に記載します。これらの値は点火エネルギーを制限するために設定されます。

例: Ui 12V, Ii 100mA, Pi 1.2W, Li 10mH, Ci 1μF (※ μF はマイクロファラッド)

性能区分 (ia, ib, ic)

Bさん:

「ia」「ib」「ic」といった性能区分は「定格」欄にどう関係しますか?

Aさん:

性能区分は本質安全回路の安全度レベルを示します ("ia"が最高)。安全度が低い区分ほど許容される電圧や電流などが大きくなる傾向があります。

申請書では、「防爆構造の種類」欄に続けて括弧で性能区分を記載します。例: 本質安全防爆構造 (ia)

本質安全防爆とは?

Aさん:

正常状態および故障状態(短絡、断路、地絡など)においても、電気回路(本安回路)で発生する火花や高温部が爆発性雰囲気に点火しないように設計された防爆構造です。

  • 点火エネルギーを制限 (電圧, 電流, L, Cを制御)
  • 安全保持部品(故障しないコンポーネント)を使用
  • 性能区分で分類 (ia, ib, ic)
  • 本安システムとして構成 (本安機器 + 本安関連機器 + 配線)

申請時には、「定格」欄へのパラメータ記載、性能区分、同一型式一覧表、詳細な添付図面が必要です。詳細は「本質安全防爆構造補足」の手引きを参照してください。

本質安全防爆:添付図面

Bさん:

図面はちょっと苦手意識があるんですが…。本質安全防爆の場合、どんな図面が必要ですか?

Aさん:

大丈夫ですよ。本質安全防爆では主に以下の図面が必要です。

  • システム構成図: 本安機器と関連機器の接続、配線など。
  • 本安性保持の概要図: どのように本質安全を実現しているか(回路分離、電圧/電流制限など)。
  • 外形寸法図: 機器の外観、寸法、容器材料など。
  • 構造詳細図: 内部構造、特に安全保持部品の配置や回路間距離など。
  • 電気回路図: 回路全体、安全保持部品のマーク、回路定数の値など。

これらの図面で、安全性を詳細に示すことが重要です。

耐圧防爆構造:特有の記載

耐圧防爆とは?

Bさん:

耐圧防爆構造は、爆発が容器内部で起こっても、その圧力に耐えて、外部の爆発性雰囲気に引火しないようにする構造ですよね?

Aさん:

その通りです!モーターや制御盤などが該当します。

定格欄への記載項目

Aさん:

電気的定格に加え、以下の項目が特に重要です。

  • 温度等級: 機器の最高表面温度に関連し、爆発性雰囲気の発火温度との関係で重要です (例: T4 は最高表面温度135℃以下)。申請書の「定格」欄に記載します。
  • 容器の耐圧試験圧力: 容器が爆発圧力に耐えられることを示す試験結果の値です。

申請図面への記載項目

Bさん:

安全間隙は、接合面の種類によって、その長さや隙間の大きさが決められているんですよね?

Aさん:

よくご存知ですね!「安全間隙」は、容器の接合面の隙間で、火炎が外部に漏れないように非常に小さく設定されています。

平面接合、ねじ接合など、接合面の構造によって必要な安全間隙の寸法が異なります。これらの情報は、申請図面に詳細に記載する必要があります。

耐圧防爆構造は容器の強度と密閉性が重要なので、申請書と図面でこれらの情報を正確に示すことが不可欠です。

あらかじめ行った試験

試験の必要性

Bさん:

あらかじめ行った試験…ですか? ちょっと聞いたことはあるような…。

Aさん:

これは、申請する製品が規格に適合しているか、申請者自身で事前に確認する試験のことです。防爆構造ごとに必要な試験は異なりますが、「あらかじめ行った試験の結果を記載した書面」の提出が必要です。

本質安全防爆の場合

Aさん:

本質安全防爆では、設計値への適合や安全保持部品の機能確認のため、以下の試験などを行います。

  • 火花点火試験
  • 温度試験 (回路部品、表面温度)
  • 電圧・電流測定

国際整合防爆指針に基づく申請では、製造する全製品に対する「ルーチン試験」の結果も必要になります。

ルーチン試験とは?

Bさん:

ルーチン試験…?

Aさん:

製造工程の中で、製品の安全性を定期的にチェックする試験です(例:絶縁抵抗測定、耐電圧測定)。これにより、製造工程全体での安全性確保を証明します。

つまり、設計段階の試験と製造段階の試験の両方が必要になります。

試験の深掘り

Bさん:

故障状態まで考えないといけないんですか?

Aさん:

はい、特に本質安全防爆では故障時の安全性が重要です。故障状態を模擬した条件下での温度上昇測定や火花点火試験などが必要です。これにより、規格で想定されるあらゆる状況下での安全性を確認します。

試験項目や方法は、防爆構造(耐圧なら爆発試験、粉塵ならIP防塵試験など)や適用規格によって異なります。

記録の重要性

Aさん:

試験は正確な手順で確実に実施し、その結果(測定値、試験方法など)を「あらかじめ行った試験の結果を記載した書面」に詳細に記録することが重要です。

記録を残すことで、後からの確認や問題発生時の原因調査が可能になります。

添付図面:作成のポイント

必要な図面の種類 (一般)

Aさん:

図面は防爆性能に関わる部分を詳細に示す必要があり、主に以下の種類があります。

  • 外形寸法図: 外観、寸法、材料など。
  • 組立断面図: 内部構造。
  • 防爆性能に関係する部分の構造図: 最も重要。詳細な構造を明確に。
  • 必要に応じて電気回路図、機器構成図など。
  • 同一型式品に関する図面: 構造の違いを明確に。
  • 防爆関連表示事項: 銘板の表示内容。

作成時の注意点 (共通)

Bさん:

作成する際に注意すべき点はありますか?

Aさん:

はい、以下の点に注意してください。

  • 寸法には許容差を明記する。
  • 材料名はJIS記号(なければ学術名)で記載する。
  • 単位はSI単位系で統一する。
  • 主要部品については部品表(名称、数、材料、寸法、定格など)を作成する。
  • 取付方向が防爆性能に影響する場合は明記する。

試験についてもう少し:本質安全防爆の試験プログラム

主要な試験

Aさん:

本質安全防爆機器の主な試験には以下のようなものがあります。

  • 火花点火試験
  • 部品の温度試験
  • 耐電圧試験
  • セルおよびバッテリーの試験
  • ピエゾ素子の衝撃試験
  • ルーチン試験(ダイオード式安全保持器、変圧器の耐電圧)

火花点火試験

Aさん:

本質安全防爆の中核となる試験で、回路が点火能力を持たないことを実証します。通常状態・故障状態を模擬し、火花試験装置で評価します。

試験ガス(使用ガスグループ、安全率で決定)と試験回路パラメータ(交流/直流/容量性)を適切に設定する必要があります。

  • グループIIC: 水素
  • IIB: エチレン
  • IIA: プロパン
  • I: メタン

部品の温度試験

Bさん:

非線形の温度特性を持つ部品については、特別な配慮が必要とのことですが?

Aさん:

目的は①温度等級の決定、②部品が定格内で使用されているかの確認です。基準周囲温度(通常40℃ or 最高周囲温度)で行います。

バッテリーなど非線形な部品は、単純な温度差加算ではなく、実際の使用温度範囲での試験が必要です。

耐電圧試験

Aさん:

絶縁の健全性を確認します。交流または直流電圧を徐々に(10秒以上かけて)上昇させ、規定値で60秒以上保持します。試験中の電流は 5 mA r.m.s. 以下でなければなりません。(※ r.m.s. は実効値)

Bさん:

もし5 mAを超えた場合は、すぐに不適合という判定になるのでしょうか?

Aさん:

はい、その通りです。試験中のどの時点であっても5 mAを超えた場合は不適合となります。

セル・バッテリー試験

Bさん:

セルやバッテリーの試験では、事前準備が必要だと聞きましたが。

Aさん:

再充電可能な場合は、試験前に最低2回の充放電サイクルが必要です。

試験内容:

  • 電解液漏れ試験(極端な条件下)
  • 火花点火能力の評価
  • 表面温度の評価(短絡状態などでの最高温度確認)

短絡試験の抵抗は 3mΩ 以下、または電圧降下 200mV 以下 or セル起電力の 15% 以下とします。(※ mΩ はミリオーム)

温度試験は最も厳しい条件となる温度で実施します。

その他試験と注意点

Aさん:
  • ピエゾ素子衝撃試験: 衝撃による電圧・エネルギーを評価。
  • ルーチン試験: 製造時にダイオード式安全保持器、変圧器の耐電圧試験を実施。

共通の注意点:

  • 許容差管理: 電圧/電流 ±1%, 機械的寸法 ±2% (タングステン線長 ±10%)。
  • 故障条件: "ia"は二重故障、"ib"は単一故障、"ic"は正常状態を考慮。
  • 試験順序: 非破壊的な試験から実施するなど論理的な順序で。
Bさん:

非常に詳しく説明していただき、ありがとうございました。本質安全防爆機器の試験について、よく理解できました。

Aさん:

どういたしまして。試験条件の選定には、製品の使用環境や要求される安全レベルを十分に考慮してください。ご不明な点があれば、いつでもご質問ください。