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更新:2025.05.01
工場や作業現場では、様々な種類の粉じん(細かい固体粒子)が発生することがあります。これらの粉じんの中には、空気と混ざり合って特定の濃度になると、静電気や火花などの小さなエネルギーで引火し、爆発を引き起こす可能性があるもの(爆発性粉じん)があります。
このような危険な場所で電気機器を使用する場合、その機器が点火源とならないように、特別な安全対策を施した「防爆構造電気機械器具」(防爆機器)の使用が日本の法律(労働安全衛生法及び関連規則)で義務付けられています。
ここでは、日本国内において爆発性粉じん雰囲気で使用される防爆機器の分類(特にグループⅢ)について、厚生労働省の通達に基づき、具体例を挙げながら解説します。
この厚生労働省の通達は、爆発性粉じん雰囲気で使用される防爆機器(グループⅢ)について、その場所にある粉じんの性質に合わせて、より安全な機器を選定できるように、ⅢA、ⅢB、ⅢC という3つのサブグループに細分化することを定めたものです。
重要なポイント:
区分 | 粉じんの性質(概要) | 主な対象粉じんの例 | 該当する可能性のある場所 (安衛則※) |
---|---|---|---|
IIIA | 比較的大きな可燃性の固体粒子や繊維状のもの (公称粒子径 500μm 超)。発火はするが、爆発性は比較的低い。 | 綿ぼこり、木くず(粗いもの)、合成繊維くず、亜麻、ジュートなど | 第281条に規定する箇所 (可燃性粉じんが存在し、爆発・火災の危険がある場所) |
IIIB | 微細な可燃性粉じん (公称粒子径 500μm 以下) のうち、電気を通しにくいもの (電気抵抗率 1,000Ω・m 超)。粉じん雲となって爆発する危険性がある。 | 小麦粉、コーンスターチ、砂糖、でんぷん、プラスチック粉末(一部)、樹脂粉末、石炭粉(一部)、飼料粉末、医薬品粉末(一部)、トナー粉(一部)など | 第281条に規定する箇所 (可燃性粉じんが存在し、爆発・火災の危険がある場所) |
IIIC | 微細な可燃性粉じん (公称粒子径 500μm 以下) のうち、電気を通しやすいもの (電気抵抗率 1,000Ω・m 以下)、または労働安全衛生規則で定める**「爆燃性粉じん」**。導電性があるため静電気が溜まりにくくても、爆発の危険性が高い、あるいは特に爆発しやすい性質を持つ。 | 導電性粉じん: アルミニウム粉、マグネシウム粉、亜鉛粉、鉄粉などの金属粉、コークス粉、カーボンブラック(一部)など 爆燃性粉じん※2: 通達で指定されたもの(例:特定の金属粉など。詳細はガイド参照) |
第281条 及び 第282条※3 に規定する箇所 (可燃性粉じんが存在する場所、及び 特に爆発力の強い「爆燃性粉じん」が存在する場所) |
補足:
金属の塊は燃えにくいのに、なぜ細かい粉になると爆発することがあるのか。この一見矛盾した現象は多くの人を不思議に思わせます。本解説では、科学的な視点から金属粉じん爆発のメカニズムを分かりやすく解説します。
A1: 爆発とは、非常に短い時間で急激な化学反応(主に燃焼)が起こり、大量の熱とガスが発生して体積が急膨張する現象です。この急膨張によって衝撃波(爆風)や大きな音が発生します。
A2: 確かに、日常で見る金属の塊(フライパンや鉄骨など)は熱してもなかなか燃えません。これは熱が全体に分散してしまうことと、酸素と触れる表面積が相対的に小さいからです。しかし、金属も条件が揃えば燃焼(酸化反応)します。身近な例として、マグネシウムリボンや、スチールウールのように細くした鉄は比較的簡単に燃やせます。
A3: これが最も重要なポイントです。金属を非常に細かい粉末状にすると、以下の理由で爆発しやすくなります:
A4: 金属粉じんが爆発するためには、一般的に「粉じん爆発の5要素」が揃う必要があります:
これら5つが同時に揃ったときに、粉じん爆発が発生するリスクが非常に高くなります。
A5: 多くの金属で粉じん爆発の可能性がありますが、特に注意が必要なのは以下のような金属です:
A6: 金属粉末を製造したり、扱ったりする様々な場所で起こる可能性があります:
A7: 極めて強力です。建物の壁を破壊し、重大な人的被害をもたらす可能性があります。アルミニウム粉じんの爆発エネルギーは同量のTNT火薬に匹敵するとも言われています。また、最初の爆発(一次爆発)で床などに堆積していた粉じんが舞い上がり、さらに大規模な二次爆発を引き起こして被害を拡大させることもあります。
A8: Q4で挙げた「粉じん爆発の5要素」のうち、一つでも取り除けば爆発は防げます。主な対策は以下の通りです:
A9: 直接的な爆発事故は稀ですが、関連する現象はあります:
A10: はい、爆発します。小麦粉、コーンスターチ、砂糖、木粉、石炭粉、合成樹脂(プラスチック)粉末など、多くの可燃性有機物の粉じんも同様のメカニズムで「粉じん爆発」を起こす危険性があります。歴史的にも製粉工場や石炭鉱山などで多くの爆発事故が起きています。
A11: 導電性自体が爆発の直接原因ではありません。爆発のしやすさは、主に物質の燃えやすさ(酸化しやすさ)と表面積によります。ただし、導電性の粉じんは静電気の帯電・放電の挙動が非導電性粉じんと異なり、金属部分との間で火花放電を起こしやすいなど、静電気による着火リスクの評価において考慮すべき点があります。
A12: 正確な統計は難しいですが、工業国では年間数十件の粉じん爆発事故が報告されており、そのうち相当数が金属粉じんに関連しています。未報告の小規模な事例を含めると実際の数はさらに多いと考えられます。特にアルミニウム、マグネシウム加工業では重大事故のリスクが高いとされています。
A13: 粉じんは危険性や性質によって分類されており、主に以下の3つのカテゴリーに分けられます:
この分類は防爆電気機器の選定など、安全対策を行う上で重要な指標となります。
A14: グループⅢAに分類される粉じん(綿ぼこり、粗い木くず、合成繊維くずなど)は、相対的に爆発リスクは低いです。粒子が大きいため、浮遊しにくく、表面積も比較的小さいため、急速な燃焼反応が起こりにくいです。ただし、発火すると火災の原因となり、燃焼の過程で微細粉じんが発生すると二次的に爆発リスクが高まる可能性があります。
A15: グループⅢBの粉じん(小麦粉、砂糖、プラスチック粉末など)は、微細で可燃性が高く、適切な条件下では爆発の危険性があります。電気を通しにくい性質があるため、静電気が蓄積しやすく、それが着火源となる可能性もあります。実際に製粉工場や砂糖工場などで爆発事故が発生した事例が多数あります。
特に粒子径が小さいほど爆発リスクが高まり、換気や清掃の徹底、静電気対策などの安全管理が重要です。
A16: はい、グループⅢCの粉じんは3つの分類の中で最も爆発リスクが高いと考えられています。このグループには金属粉(アルミニウム、マグネシウム、亜鉛、鉄など)やカーボンブラックなどが含まれます。
これらの粉じんが特に危険な理由は:
このため、これらの粉じんを扱う場所では、特別な防爆対策(防爆構造の電気機器の使用など)が必要とされ、労働安全衛生規則でも特に厳しい管理が求められています。
A17: 粉じんの導電性と爆発リスクの関係は複雑ですが、主に以下のように関連しています:
ただし、導電性自体が直接爆発性を高めるわけではなく、両方の粉じんタイプに固有のリスクがあります。導電性の有無に関わらず、微細で可燃性の高い粉じんは適切に管理する必要があります。
金属は塊の状態では燃えにくいですが、非常に細かい粉末になると表面積が劇的に増え、熱がこもりやすくなります。これが空気中に適度な濃度で舞い、着火源があり、密閉された空間という条件が揃うと、一瞬で燃焼が広がって爆発に至ります。特にグループⅢCに分類される導電性の金属粉じんは、最も危険度が高いとされています。しかし、小麦粉や砂糖などの非導電性粉じん(グループⅢB)も、適切な条件下では爆発の危険性があります。可燃性の物質は、その導電性に関わらず、微細な粉じん状態では爆発リスクがあることを理解し、適切な対策を講じることが重要です。
金属粉じんの爆発現象を、物理化学的な視点からさらに詳しく解説します。
金属の燃焼は表面で起こる酸化反応です。固体を微粉末にすると、体積に対する表面積の比(比表面積)が極めて大きくなります。
表面積が増えれば、酸素分子と接触できる金属原子の数が飛躍的に増加します。化学反応の速度は反応物質の濃度(ここではアクセス可能な表面原子数)に比例するため、比表面積の増大は燃焼(酸化)速度の劇的な上昇につながります。
金属の酸化反応は、一般的に大きな熱を放出する発熱反応です(反応エンタルピー変化 ΔH < 0)。
塊状の金属では、発生した熱は金属の高い熱伝導率によって速やかに内部や周囲へ拡散し、温度上昇が抑えられます。しかし、空気中に分散した微粒子は、周囲の空気への熱伝導は効率が悪く、粒子自体が小さいため熱容量も小さいです。このため、発生した熱が粒子内に蓄積しやすく、粒子自身の温度が急上昇します。これがさらなる反応を加速させる正のフィードバックを生み出します。
一つの粒子が着火して高温になると、その熱が放射や周囲の気体の対流・伝導によって隣接する粒子に伝わります。粉じんが適度な濃度で分散している「粉じん雲」状態では、隣接粒子も次々に着火温度に達し、燃焼を開始します。この燃焼の連鎖が非常に速い速度(火炎伝播速度)で空間全体に広がります。
燃焼による急激な発熱は、周囲の空気の温度を瞬間的に数百度~数千度にまで上昇させます。密閉された空間では、気体の状態方程式(PV=nRT)に従い、温度 T の急上昇は圧力 P の急上昇を直接引き起こします。
また、燃焼によって固体が気体になったり、反応熱で他の物質が気化したりすると、気体のモル数 n も増加し、これも圧力上昇に寄与します。この急激な圧力上昇が衝撃波(爆風)となり、破壊的な力となります。
圧力波の伝播速度が音速以下の場合は「爆燃 (Deflagration)」、音速を超える場合は「爆轟 (Detonation)」と呼ばれます。爆轟の方が破壊力は格段に大きくなり、金属粉じんの場合、条件によっては爆轟に近い現象も起こり得ます。
このように、金属粉じんの爆発は、微粒子化による反応性の向上、熱の蓄積、燃焼の高速伝播、そして急激なガス膨張が組み合わさった現象であり、物理化学の法則によって説明されます。その潜在的な危険性を正しく理解し、適切な予防策を講じることが極めて重要です。
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